「僕たちは歩いてゆく。」第十六話(最終話):戻った日常

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何気ない毎日が戻った。朝起きて、寝ぼけた頭でニコニコ動画を見て、ネットサーフィンをして、風呂に入って、電車に揺られて大学に行って。
何も変わらない。変化のない毎日。だけどそこには、確かな何かがあった。
極端に充実したわけじゃない。だけども考え方とか、人との関わり方とか、わずかに、少しずつと変わっているような気がした。
人が変われば世界が変わる、なんて言いたくはないけれど、前よりも良い方向に環境が変化しているような。そう思わせる空気が、佇んでいた。
季節がそうさせるのか、思い出がそうさせるのか、分からない。秋になり、冬が近づいてくるこの時期、物思いに耽るのは、ひとつの醍醐味かもしれない。
浦町や前島とは前以上に会話をするようになった。三上さんとは連絡が取れない。大学のキャンパスの中で会うこともない。いったい何をしているのか、誰も知らないようだった。心配だけれども確認をする手段がない。彼女の家を知っている人はいないし、SNSの彼女のページを開いても、更新するどころか見ている気配もなかった。
……ショックなのは、池田氏だった。旅が終わって少しして、交通事故で亡くなってしまった。トラックに撥ねられて、即死だったらしい。彼女の通夜にみんなで行った。せっかく仲良くなれたのに。悔やまれてならない。
池田氏のこと、忘れないよ。彼女の棺の前で手を合わせながら、胸の内で彼女の安らかな眠りを願った。どうか、幸せな日々を。
伊狩さんは、たまに杏山先生との飲み会に参加するようになった。そして旅をしている時と同じように、無邪気に笑いながらすべったギャグに笑ってくれる。なんと彼女、杏山先生と付き合いはじめた、もとい付き合っていたというのだ。初めて聞いた時には驚きを通り越して妙に納得してしまった。浦町や前島が何か言うかと思ったけれど、別にそうでもなく、すんなりとその事実を受け止めているらしかった。女心は、よく分からない。
みんなは旅をして、どう変わったのだろう。傍目から見たら、そうそう変化は見られない。だけどきっと何かが根付いていることを俺は願ってやまなかった。

そんな風にすぎた毎日。旅に出てから一ヶ月が過ぎようとした、ある日の午後。
偶然、前島とラウンジで出会った。かすれゆく空は、雲なき蒼が広がっていた。肌に触れる空気はひんやりと冷たく、まるで深い森の奥に佇む枯葉の沈む水たまりのようだと思った。
「こんなところでどうしたんだ?」
「ああ、うん。ほら、旅の写真を先生に見せてあげようと思ってさ」
彼女の手には白い封筒が握られていた。ずいぶんと分厚い。撮った写真をすべて現像したらしかった。
「ほら、いろんな人が写っているからさ」
「……ああ、そうか」
一瞬にして、目頭が熱くなった。いろんな思い出が、あの旅の中に詰まっていた。
走馬灯のように蘇る。旅にでることを杏山先生に勧められて、決意して、みんなに話してまわって、いろんな人に出会って、歩いて、帰ってきて。
立ち止まらずに突っ走ったあの日々は、もうここにはないけれど、足を一度止めてしまえば、いつだって心の引き出しから取り出すことができるのだ。
「それでね、ちょっと平岡くんにも見てもらいたい写真があるんだけど」
「ん、なんだ?」
前島が封筒から何枚か写真を取り出して、俺に渡してくれた。
「うーんとさ、写真にはうつっているんだけど、誰だっけって人が何人かいてさ」
思い出せそうなんだけど、思い出せないんだ、覚えてる? と前島が写真を指差した。
眼帯をした女性、ネコミミのカチューシャをした女性、パーマがかかったような髪にマスクをした女性。確かに、見たことがあるような気がする。
でも、こんな人たち、一緒に旅をしたっけ。記憶を辿ってみたけれど、分からない。
「もしかして幽霊かな?」
「こんなはっきりと写る幽霊なんていないだろ!」
怖いことは言わないでほしい。祟られるようなことは、したことなんてないはずだ。
「うーん、でも確かにどこかで会ったことがあるよな……」
どこで、だっけ。どこかで、絶対どこかで、会った。会ったはず。ただ、どこでなのかまで思い出せない。
「ネコミミのカチューシャなんて、つけているのを見たら忘れないんだけどなあ」
秋葉原ならともかく、こんな場所だったら絶対に忘れるはずがない。はずがないんだけど、思いだせない。なんだろう、気持ち悪い。そう、まるで頭の中が黒ゴマプリンになってしまったような気分がする。
思い出さなくちゃ。どうしてか分からないけれど、そんな気がした。思い出さないとダメだ、俺は思い出さなくちゃいけないんだ。
普段あまり使わない頭をフルに回転させて、思考回路のすみずみまで使って、彼女らについて、思い出さないといけない。
なんだろう、喉のところまででかかっているのに、そこから上まであがってこない。
嗚呼、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
『別にいいじゃないですか、生きるのも死ぬのも、どうせ変わらないんですから』
誰かの台詞が頭の中を流れてゆく。
『ドリームランド? ネバーランドの間違いでしょ?』
茫漠としたイメージが、だんだんと具体的なものになっていく。
『いいね。まさかドリームランドで鬼ごっこをするとは思わなかったよ』
確か、彼女は言った。セピア色の世界で、今彼女が確かに言ったのだ。
「…………あ」
ぴんと、まるで砕け散っていたガラスが逆再生で元に戻るような感触と一緒に、彼女たちと過ごした日々が、俺の中に戻ってきた。
どうして、どうして忘れていたのだろう。どうして忘れてしまっていたのだろう! こんなにも大切な人たちなのに、どうして俺の中からすっぽりと思い出と共に消え去っていたのだろう。
「平岡くん、思い出したの?」
思い出したんじゃない。きっと俺は今、取り返したんだ。奪われてしまったものが、再び自分の中に入ってきたような感じだ。嗚呼、また会えたね。やっと会えたんだね。
「これがぱつ子……加奈子。これが横田さん、これが一之瀬さんだよ」
「加奈子……え、リレー小説に出てくる?」
前島が腕を組んで首を傾ける。そして思い出したように、目をカッと大きく見開くと、手をぽんと打った。
「あああああああああああああ、思い出したよ、思い出した! 確かにそんな人たちがいたね!」
なんで忘れてたんだろう、うおおおおおと叫びながら、前島はキャスケット帽を深く被りなおした。そうとうショックだったのだろう、そこまで取り乱す前島を見るのは初めてだった。
「今、彼女たちは何をしているんだろう?」
「私も知らないよ。今思い出したんだから」
「そうだよな……」
いつから彼女たちのことを忘れていたんだろう。一之瀬さんは少なくともドリームランドから現実世界へと戻ってくるところまでは一緒にいた。その後一緒にカラオケも行ったんだから、そこまで覚えている。
加奈子は、ドリームランドを旅している時には確かにいた。鬼ごっこで池田氏と二人で追いかけたりしたし、プロレタリアの話とか、ラーメンズの話とかしたはずだ。
横田さんは……どこまで記憶があるだろう。ドリームトレインから降りたところは確かにいた。初日は確かに横田さんは一緒にいた。でも、その後から記憶がない。
背筋に凍るような悪寒が走った。どうして横田さんがいなかったのに、さぞもともといなかったかのように、旅を続けていたのだろう。もしかしたら他にもいるのかもしれない。
「他の人がうつっている写真はないか? 例えば集合写真とか」
「あるよ、これこれ」
前島が一枚の写真を取り出した。二人でその写真を眺める。
そこには俺がいて、前島がいて、浦町がいて、池田氏がいて、三上さんがいて、伊狩さんがいて、横田さんがいて、一之瀬さんがいて、加奈子がいた。
これが全員。他に忘れてしまっている人はいないようだった。
「ねえ、どうして忘れてたんだろう。しかも二人とも」
「もしかしたらみんなかもしれないぞ。浦町や伊狩さんも忘れているかもしれない」
不思議だと言いながら、旅の風景を二人で眺めた。写真で改めて見ると、より鮮明に思い出せる。楽しかったこと、考え込んでしまったこと。プロレタリアの話をしたこと、太宰の話をしたこと、鬼ごっこをしたこと。
旅をしてよかった。確かにそう思う。でも、違和感が残る。言葉にできない不確定な何かが俺の心に巣くっているのだ。気持ち悪い。でもなんとかできる気持ち悪さだ。旅のこと自体を思い出さなければ、現れることはない。
乾いた風が、俺の頬を撫でて去っていった。

前島と別れた後、俺は杏山先生の元に行くことにした。この時間なら教官ロビーでお茶でも飲んでいるはずだ。
カツカツと、自分の足音だけが校舎に響く。夏に比べて少し薄くなった影が、廊下に無言で伸びていた。
次の曲がり角をまがれば、教官ロビーだ。少し歩を早めると、曲がり角の向こうから話し声が聞こえた。聞き覚えのある声。杏山先生と伊狩さんだった。
「で、平岡たちは僕の思ったとおりに進んだのかい?」
先生らしくない声が廊下に響く。思わず足を止めてしまった。かげからこっそりと向こうを覗くと、壁に背もたれている杏山先生と、廊下のやや真ん中気味に立っている伊狩さんが、いた。
そこだけ影が濃いように思える。まだ秋の名残が残っている昼時だというのに空気が冷めている。雰囲気がそうしているのか、それとも俺の予感がそこに閉鎖的な空間をつくっているのかも、しれない。
「はい。途中でドリームランドが現実世界とリンクしてしまったのは想定外でしたが、他はおおむね順調でした」
「そうかそうか。ありがとう。報告を聞くのが遅くなってごめんよ。なかなか一人になれないものでね」
「電話でもよかったのに」
笑っているはずなのに、伊狩さんの笑みは純粋さを失い、裏に何かを秘めている笑いにも見えた。恋人同士の笑い方とは違う。どちらかというと、昼ドラで嫁と姑が牽制のために笑いあっている、という表現の方がふさわしい。
「きちんと面と向かって話したかったんです。電話越しに言えるような、そんな軽い会話じゃないだろうって、杏山先生も理解しているんでしょう?」
「はっは、確かに。ユイは優れ者だな」
先生は天井に向かって高く笑った。あんなにも威圧的で近寄りがたい笑い方を、俺は知らない。あれが本当の杏山康の姿なのか、それとも普段俺たちと接している時が本当なのか。そんな愚問が頭によぎる。どちらも本物なのだ。
「先生、どうして加奈子ちゃんをドリームランドに残したのですか? そういう風に設計したんですか?」
「……なんのことかな」
「とぼけないでください。先生がそういう風に造らなければ、加奈子ちゃんは今でもこの世界にいて、一緒にいれたはずなんです」
設計? 造る? 何を言っているのだろう。
「私、知っているんです。先生、また校舎の地下で新しい加奈子を育てていますよね。ああ、今度のコードネームは美月ですか? それとも男の子を作っているのでしょうか。そしたら秀一って名前になるんでしょうね」
ぞくっと、背筋を先ほどとは違う戦慄が走りぬけた。俺はまだ夢の世界にいるのだろうか。もう現実に戻ってもいいだろう、朋宏。クールになれ。
「……ふむ、そこまで知っているのか」
「教えてください先生! どうして加奈子ちゃんをあの世界に残したのか!」
「落ち着きなさい、ユイ。分かった、話してあげよう」
先生は壁から背を離して、伊狩さんの肩に手をおいた。伊狩さんは胸の前で神に祈るように手を組みながら俯いた。
「本当は、加奈子は自ら崖から飛び降りるように設計したんだ。確かに設計した。ドリームトレインに乗せる段階で再確認もした。それなのに加奈子は飛び降りなかった。おそらく飛び降りれなかったのだろう」
「平岡くんたちですか?」
「おそらくね。それ以外に考えられない。教えてくれないか、旅の途中で、僕の設計を超える何があったのかを、ね」
「私にだって分かりませんよ。四六時中、加奈子ちゃんや平岡くんたちと一緒にいたわけじゃないですから」
すっと、伊狩さんがゆっくりと静かに顔を上げる。耳につけたピアスが、それに合わせて冷たく揺れた。
「加奈子ちゃんは平岡くんとよく話していました。考えられるとしたら平岡くんだと思います」
「やっぱりか。僕も平岡が理由なんじゃないかと思ったよ」
困ったものだと言いながら、杏山先生は笑った。
「でも、それでよかったのかもしれない。少なくとも加奈子は死ぬんじゃなくてドリームランドでずっと過ごすんだからね」
「ある意味、酷な話ですよ。誰もいない世界で、独りぼっちで過ごさなくちゃいけないんですから」
「大丈夫だろう。一之瀬くんも還ったみたいだし、ええと、横田さんもドリームランドに取り込まれたんだろう?」
「横田の場合は取り込まれたというより、自分からすすんでドリームランドと同化した、という方が正しいと思います。自分の意志で、あの場所に消滅することを決意したんです」
「きっとみんな覚えていないんだろうなあ。ドリームランドに消滅すると、こっちの世界の一切までも消されてしまうからね」
伊狩さんの手が震えている。耐えているのだろう。横田さんは伊狩さんが連れてきたのだし。友達がいなくなることは、とても悲しいことだ。
「先生、どうしてドリームランドに消滅することによって、こっちの世界の痕跡までなくなるんですか? 横田と共通の知り合いに言ってもそんな人は知らないと言われました。彼女が住んでいた部屋に行っても、もともと彼女はそこに住んでいなくて、彼女が入居したはずの日の一年前からずっと同じ人が住んでいると、言われました」
「矛盾を無くすため、だからだよ、ユイ」
先生が鼻の下の髭を愛しそうに触った。
「いいかい、よく聞くんだ。ドリームランドはね、そもそも一之瀬未来という、こっちの世界ではイレギュラーな存在が創りだし、介入させた世界なんだ。僕らの世界の言葉で置き換えれば、ドリームランドは一之瀬未来という神様が創りあげた新天地なんだよ。と言っても分かりづらいから『夢』と言えば分かりやすいかな。
ドリームランドに消滅するということはこの世界側から見た言い方で、夢からしてみればそれは永住を意味するんだ。つまり、本来はこの世界で続くはずの未来がそっくりそのまま夢に移動する。本来ならあるはずなのに、夢に介入されたことによって無くなった。だからその矛盾を解消しようと世界の力が働く。初めからそんな人などいないことにしてしまうんだ。そうすれば問題ないからね。
だから横田さんがこの世界に存在していたという全ての痕跡はなくなってしまったんだよ。横田さんの親も、きっとはじめから産んでいないか別の子を産んだことになっているだろう。つまり、そういうことさ」
「じゃあ、なんで私と先生は覚えているんですか? その理屈なら、覚えているのはおかしいじゃないですか!」
「うん、それは僕と君が『加奈子』という存在をつくりだしたからだよ。加奈子がドリームランドにいるじゃない? だから、この世界にいるにもかかわらず、ドリームランドとの関わりが強いんだ。言わば、不安定な次元の存在に昇華されてしまったんだよ」
他の人は覚えていないはずさ、と先生は言った。じゃあ、俺や前島はなんで思い出せたのだろう。
前島は、きっとカメラがあったからだと思う。カメラはその瞬間をそのまま一つの画面に切り取る。昔の人が『写真を撮られたら魂を抜かれる』と言っていたように、その写真の中にはドリームランドそのものが、そこに切り取られて残っているのだ。だから接点がまだ残っていた。
俺の場合は? 加奈子と過ごした時間が長かったからかもしれない。ドリームランドでの思い出、加奈子との思い出が、深く心に残っている。から思い出すことができる。だからかもしれない。その理屈で言えば、浦町も思い出せるのかも。
「一之瀬さんは、君たちを東京に帰してから、自分もドリームランドに還ったみたいだね」
「そうですね。あれから私は姿を見ていませんから」
俺も見ていない。
「先生、あの旅はいったいどんな目的で仕組んだんですか? 自分の研究のため、ですか?」
「それだけじゃないさ。まあ、半分はそうだろう。だけど、君たちの為にもなると思ってね、計画したんだ。本当、一之瀬さんを感知して捕まえることができたのは僕にとってはある意味最高な出来事だったよ」
「一之瀬さんを脅したんですか?」
「いやいや、そんなことはしていないさ。協力をお願いしただけだよ」
それが怪しい。どんな方法を使ってお願いしたんですか、先生。
「まあ、結果としてはいいように傾いた人は少なかったみたいだね。池田さんはドリームランドの影響を受けすぎたみたいだし。現実を受け止めたけれども納得いかなかったようだ。ドリームランドでよほど何かを思いつめたのだろう。三上さんも今はずっと眠り続けているって聞いた。現実から逃げたんだね。でも死ぬわけにはいかない。それならばと、夢に生きることを選んだ。ドリームランドに消滅せず、現実から逃げるには眠るしかない。うん、賢いね彼女は」
「なんで先生はそんなに冷静でいられるんですか!」
伊狩さんの悲愴な叫びが、廊下を切り裂いた。堪えきれないのだろう、その慟哭は俺の胸の奥底にまで、確かに響いた。
「……僕はね、みんなに知ってほしかったんだよ」
おとすように低い声で、先生ははっきりと言った。
「結局、この世界を支配するのは、現実なんだ。夢なんて見るもんじゃないんだ。僕たちはね、逃げられないんだよ。現実は死んだって追ってくる」
「死んでも、ですか」
「ああ。ドリームランド? 馬鹿馬鹿しいネーミングだよ、本当に。あそこは夢の場所なんかじゃない、現実の延長だ。法則がこの世界とは少し違う他は何も変わりはない」
歯がゆかった。なんだか、あの旅自体が、俺の計り知れぬところで利用されたにすぎないもののような気がして、むしゃくしゃした。
「僕たちはね、ユイがしたように、歩いていくしかないんだよ。ドリームランドじゃなくて、現実の道をね。まっすぐに歩くしかないんだ。寄り道している暇はないんだよ」
出て行ってもっと問い詰めてやろうかと思ったけど、やめた。だからといって、あの旅自体をどうこうすることはできないのだ。俺の中でいいものだったらそれでいい。それでいいのだ。
「だから、言ったでしょ?」先生の声が大きくなる。「人は壁にぶつかるからこそ成長できるんだって。成長できたかい、平岡?」
反射的に、俺は今さっき来た道を全速力で駆け出していた。
バレていた。盗み聞きしていたことが、分かっていた上で先生は話をしていたのだ。
本当に先生が考えていることは分からない、分からなさすぎる。
いつも歩いている道のはずなのに、やたらと、長いような、気がした。

 

 

数年後、伊狩さんから一枚のポストカードが届いた。あれから先生とも伊狩さんとも会っていない。住んでいる場所は一緒だったから、たぶん先生か誰かに聞いたのだろう。
先生から何かしら俺に対して危害を加えることはなかった。どうでもいいと踏んでいるのか、それともそれを考えること自体が不毛なのか。

手紙には赤ん坊の写真と一緒に、丁寧な字で添え書きがしてあった。
伊狩さんの文字だった。

『赤ちゃんが産まれました。
今度遊びにきてください。
名前は加奈子と言います。
杏山 ユイ』

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